身体な特徴
「こども」は小さな、大人ではない
ひとの発育は器官によって、その発達時期が違います。筋・骨格系・呼吸・循環器系は、小学生高学年から中学生までに 著しく発達します。ひとの身体は500以上の骨が支えていて、その骨と骨をつなぐのが関節です。関節は、ぶれないように 靭帯で支えられ、筋肉の力で曲げ伸ばしされます。こどもの骨は、骨の両端にある骨端軟骨で縦方向に、骨のまわりにある 骨膜で横方向に成長します。また、関節のまわりには筋肉がついていて、ここにも軟骨があります。この軟骨部分が 骨へと変わりながら成長し、やがて骨は関節表面に数ミリ程度の関節軟骨を残し、しっかりとした、おとなの骨となります。 関節軟骨は厚くて柔らかいため、衝撃が加わると表面が傷つくことがあります。軟骨の多いこどもの骨は、おとなに比べ衝撃に 弱いです。発育期の関節は柔軟性が大きく、過伸展す場合も、よくみられます。また、筋肉は骨の成長に追いつかず、いつも 引き伸ばされた状態になり、とくに関節周囲の付着部位には負荷がかかり、痛みを伴うことがあります。靭帯は骨に比べてかなり 強く、関節が柔らかいので損傷を受ける頻度は少ないようです。
捻挫よりも骨折になりやすい「急性のけが」
「急性のけが」とは、一度の大きな力で起こる、打ち身、捻挫、脱臼、骨折などです。通常、けがの程度は衝撃の強さによって決まりますが、上記で記述したように、こどもの筋肉や骨は弱く、少しの衝撃でも重症となることがあります。また、その程度は、こどもの体重、骨の強度、筋力などによっても異なってきます。こどもでは、筋、腱、靭帯などのけがより、強度の弱い骨端軟骨を含んだ骨折(骨端線損傷や薄利骨折)がよく起こります。また、骨膜が厚いので、ポッキリと折れない(若木骨折)のも発育期の特徴です。こどもは、骨折した骨がくっついたり、その変形が成長とともに矯正されるなど、自然治癒力に優れています。
骨軟骨のけがは後遺症が残りやすい
「慢性のけが」は、一度にかかる力は小さくても、同じ部位に繰り返しかかるくことで起こるもので、野球肘、ジャンパー膝、腰痛などが、このケースです。(金属疲労をイメージ?)筋肉や腱は常に引き伸ばされているので、スポーツ運動のように同じ部位を繰り返し使うと、最も大きい関節周囲に痛み(慢性のけが)が起こりやすくなります。関節両側に骨端線があり、伸びる度合いが大きい膝関節、肘関節には痛みが多く起こります。こどもの骨端軟骨、関節軟骨は柔らかく、傷つきやすいので、いろいろなけが(オスグッド・シュラッター病、リトルリーグショルルダー、腰椎分離症、踵骨骨端症)が起こります。骨軟骨のけがは、一部に成長障害や関節破壊などの後遺症を残すことがあるので注意が必要です。
痛みは身体が示す赤信号
この時期には、平均感覚や敏捷性など神経系統の練習を重視し、「走る」「跳ぶ」「投げる」「泳ぐ」「滑る」など、いろいろな動作を体験させて、自然な身体の動きを指導することが有効です。大きな負荷をかけた筋力トレーニングは、骨が成熟する高校生になってからでも遅くありません。ただ、個人差が大きいのもこの時期の特徴ですので、年齢の区分ではなく、それぞれの身体に合わせたトレーニングを行い、けがを予防することが大切です。こども自らが痛みを訴えることは少ないので、指導者はその動きを注意深く観察し、痛みを早期に発見してあげてください。疲労は黄信号、痛みは赤信号です。
膝痛
最も負担がかかる、ふとももの筋肉
膝関節は、どんなスポーツでもよく使われ、とくに身長が伸びる時期には、いろいろなけがが起こりやすい部位です。膝の前面には、大腿四頭筋腱と、それにつながるお皿(膝蓋骨)、膝蓋靭帯、脛骨粗面があり、伸展機構を司どっています。この伸展機構は「膝を伸ばす」「衝撃を吸収する」、「膝の動きを安定させる」という働きをしています。
お皿(ひざ)の下の骨が腫れる(オスグッド・シュラッター病)
小学校高学年から中学生にかけての男子によくみられるのがオスグッド・シュラッター病です。症状は、お皿の下にある骨が腫れて痛み、スクワットやジャンプ動作で膝を屈伸したときにも痛みます。ひどくなると、じっとしていても痛むことがあり、運動ができなくなります。原因は、筋肉が膝関節の周囲でいつも引き伸ばされているので、膝を屈伸すると、膝蓋靭帯と股骨粗面の接合部分にある骨端軟骨に負荷がかかるためです。レントゲン検査では骨軟骨の部分が不整になっていることが確認できます。シーズン始めや合宿など、練習の状況が急に変化するときには要注意です。痛みを発見したら、早期治療が大切です。まず、練習を休ませましょう。安静がいちばんの治療法です。この時「RICE」、ストレッチも有効です。症状が強ければ塗り薬や飲み薬を用いたり、膝バンドやテーピングをするのもよいでしょう。成長が止まると痛みはなくなりますが、痛みが残ったときは手術をすることになります。シンディング・ラルセン・ヨハンソン病はオスグッド病と同じ原因で起こる痛みです。10歳前後にみられれるもので、膝蓋骨下端骨軟骨に炎症が起こるために痛みます。対策はオスグッド・シュラッター病と同じです。
お皿(ひざ)の痛み
お皿お痛みは、関節が柔らかく、お皿(膝蓋骨)が緩い(よく左右に動く)女性に多くみられます。このような人は歩いたり立つときにお皿が内側を向いて、内股になります。また、座るとき、あぐらがかきにくく、トンビ座りになります。通常、膝を屈伸したとき、お皿はふとももの骨(大腿骨)の溝を滑るように動くのですが、このような人のお皿は、溝の外側にはずれてしまいます。このため、お皿の関節軟骨が傷つき、症状が起こります。症状としては、膝抜けと呼ばれる不安定感(ガクンとなる感じ)や、屈伸したとき嫌な感じ、お皿周囲の痛みなどです。治療は、お皿を支える筋肉(大腿四頭筋)、ハムストリングの強化をするとともに、フォームの改善など、正しい膝の使い方を指導することが大切です。ひどくなれば、装具やテーピング、手術が必要になることもあります。
ジャンパー膝(膝蓋靭帯炎)
骨格系が成熟してきた高校生によくみられる膝蓋靭帯の痛みです。バスケットボールやバレーボールなど、ジャンプ系の種目ではストップ、カット、ジャンプ、ダッシュなど、膝にいろいろな形で負荷がかかって発症することから、ジャンパー膝という名がついたようです。レントゲン写真では変化はみられません。応急処置はオスグッド・シュラッター病と同じですが、ジャンプ系の競技では、膝を伸ばす筋肉(大腿四頭筋)をたくさん使うので、その反対側にある膝を曲げる筋肉(ハムストリング)を強化することで屈伸のバランスをよくすることも効果があります。
骨軟骨損傷
オーバーユース(離断性骨軟骨炎・骨端線離開)
骨軟骨が「弱い」発育期に肘関節を使い過ぎると離断性骨軟骨炎(上腕骨小頭)が起こります。同じような変化は、サッカーのキックで足関節(距骨)に、ジャンプ動作で(大腿骨内顆)にも起こります。10歳ぐらいで急にスポーツを始めたり、新しいスパイク等を履いたり、普段と違う練習をしたときに、踝が痛くなることがあります。レントゲン写真をみると、スポーツによる衝撃で踝骨骨端線が不整になったり、分かれていたりするのが確認できます。また、リトルリーグで小さいころから硬球を投げると、肩関節(上腕骨近位骨端線)にストレスがかかり、利き腕でない方の腕と比べると骨端線が開いてしまいます(骨端線離開)。身体が最も発育する時期は、また一番障害が起きやすい時期でもありますが、それは身体の部位によって異なっています。そのため、踝は8〜10歳、肘は10〜12歳、肩・膝は12〜14歳、腰は14〜16歳頃に起こりやすくなる傾向があります。
そり腰が原因の腰椎分離症
小学生に腰痛はほとんどありません。腰椎は、四肢の骨より遅れて思春期に成長のピークを迎えます。そこで、この時期にサッカーバレーボール、バスケットボールなどで腰椎を反らせる(伸展)動作を繰り返すと腰痛になります。このとき、ひねり動作が加わると成長部位である椎弓(脊髄後方)に亀裂骨折(疲労骨折)が起こります。これが腰椎分離症です。腰椎分離症治療には、まず早期発見早期治療が大切です。発見が遅れると骨がつきにくくなり、慢性の腰痛になります。腰を反らせたときの痛みが2〜3週間続くときはスポーツ・ドクターを受信してください。分離症の程度と痛みの強さは、必ずしも一致しません。この骨折を早く見つければ、スポーツの中止と、コルセットの使用で4〜6ヶ月で治ります。治療せずに、腰痛を我慢して練習を続けると椎弓が完全にに分離してしまいます。その場合は、腹筋を鍛え、反り腰にならないような動きを覚えることで、痛みの発現を抑えることができます。
こどもの骨は軟骨が折れやすい(剥離骨折・骨端症)
スポーツ動作で、筋肉による牽引力がその付着部の骨軟骨に働く際、急激に作用すると剥離骨折に、ゆっくりと繰り返して作用すると骨端症になります。剥離骨折は、トップスピードの動きで筋肉が強く収縮したり、屈伸のタイミングがずれることで、急激に強い力が筋付着部に働き、骨軟骨が剥離するもので、骨盤によく起こります。サッカーのキックでは膝を伸ばす筋肉(大腿四頭筋)の力で下前腸骨棘が、ハードルでは膝を曲げる筋肉(ハムストリング)の力で坐骨結節が、幅跳びの着地では大腿四頭筋の力で脛骨結節が、投球時には手首を手のひら側に返す筋肉の力で上腕骨内上顆が剥離します。骨端症は、スポーツ動作で筋肉を使うとその付着部に負担が徐々に蓄積して発症します。レントゲンでは、骨端線が不整になったり、分かれて見えます。スポーツで転倒したときは手首のすぐ上(橈骨末端)に、また、強く足首をひねったときには足関節に骨折が起こります。発育期には骨端軟骨を含んだ骨折となりますが、これを骨端線損傷といいます。
早めにスポーツ・ドクター受診
発育期における骨軟骨のけがは、”痛み”を主症状として進行します。できるだけ早くスポーツ・ドクターと相談してください。レントゲンやMRIの検査などで早期に診断できれば、早期の対策が可能です。骨軟骨のけがと診断されたら、練習を中止して、痛みがなくなるのを待ちます。痛みがとれても、すぐに練習はできません。レントゲン検査で3〜4ヶ月は骨の変化を観察する必要があります。骨の変化が進行したときには、手術をすることもあります。
突き指
骨折の有無は症状に無関係
だれでも一度や二度は、こどものころに突き指を経験したことがあるのではないでしょうか。突き指は球技によくいられ、ボールが指先に当たったり、何かに接触したときに起こります。特にこどもの手は小さいため、ボールをうまく処理できずに突き指が起こります。ひとくちに突き指といっても、打撲や捻挫程度のものから、靭帯が切れたり、脱臼、骨折までさまざまです。これはボールが当たる方向と外力の強さで決まります。突き指で変形しているとき、指を引っ張ると”ポコッ”と音がして戻ることがあります。しかし、現場で無理に整復するのは危険です。症状が軽ければテーピングをして試合出場も可能ですが、けがの程度と症状は必ずしも一致しないこともありあす。腫れや痛み、変形が強いときはRICE処理をして、必ずスポーツ・ドクターの診察を受けるよう指導しましょう。
突き指は第一関節、第二関節に起こりやすい
槌指(マレットフィンガー)は、曲がった指先がハンマー(槌)の先のような形に見えるので、この名前がつきました。指の第一関節に起こり、指先を伸ばす腱が切れるものと、腱に引っ張られて骨が折れるものがあります。折れた骨が大きいと関節面の合わせがずれて脱臼骨折となり、放置すればハンマー状の変形を残し、指をまっすぐに伸ばせなくなります。このようなときには、手術をして元の位置に戻します。程度の軽いものは指を伸ばした状態でアルミの添え木やテープで4〜7週間固定をします。指先の横からの力が加わると、第二関節を横にぶれないように支えている側副靭帯が切れて、関節が不安定になります。これは、2〜5指では、親指側に起こります。また、親指では、横に開く力が働くと第二関節小指側の靭帯が切れます。これはスキーヤーがストックを握ったまま転倒した時によくみられ、スキーヤーズサムと呼ばれます。放置すると、物を握ったりつまんだりするときに関節に力が入らず、痛み、腫れ、変形などが残ります。治療は、槌指と同様、添木を使った固定ですが、完全に切れているときは手術が必要です。
たかが突き指と、軽視しない
大きなボールが当たり、指が反り返ったとき、第二関節の手の平側にある軟骨でできた組織(掌側板)が切れることがあります。このとき、骨や靭帯が同時に傷つくと、指先が手背側にずれて、第二関節の手のひら側が強く痛み、腫れて曲がらなくなります。また、指が少し曲がったままでボールが当たると、第二関節が脱臼、骨折することがあります。こうなると痛み、腫れ、変形が強く、引っ張って元に戻しても、きちんとその位置に保つのは難しく、手術をしてしっかり固定することが必要です。このように突き指は、いろいろなケースがあり、損傷の程度によって一定の固定期間が必要です。軽視すると、種目によっては選手生命を失うことにもなりかねません。素人診断せずにスポーツドクターに相談してください。予防には入念なウォームアップや適度な緊張感が大切です。また、グランドの整備などで原因を減らすことができます。
けがの予防
危険信号は痛みから
試合中の選手にけがが起きたとき、指導者は、そのまま出場させるかどうか即断を迫れることがあります。また、練習中に、いつもと違う動きをしているこどもを見つける事もよくあるのではないでしょうか。このとき、試合や練習をやめさせる目安は「痛み」です。痛みは注意信号でもあり。危険信号でもあるのです。ひとくちに「痛み」といっても、急性のけがと慢性のけがではその対処の仕方が異なります。また、同じような「痛み」を訴えても、年齢によってその治療は違います。たとえば、同じ痛みでも中学生以下では、練習を休ませ1〜2週間様子を見ますが、高校生以上の場合には、練習をさせながら、痛みの持続や変形の有無、関節の動きなどに気を配り対応します。痛みが続くときは、スポーツ・ドクターを受診させるのがよいでしょう。
ストレッチの必要性
骨が良く伸びるこの時期、運動の前後には必ずストレッチをして筋肉を伸ばしておきましょう。無理な筋力トレーニングをすると、この時期には骨と筋肉のバランスが悪いため関節周囲の痛みを起こす事があります。痛みのある反対側の筋肉を強化して、屈伸のバランスをよくしましょう。また、ウォームアップで徐々に身体を暖め、筋肉を伸ばし、クールダウンで練習のときに使った筋肉の疲れを取るのも、けがの防止に効果があります。スポーツを始める前に、関節の緩みや硬さ、四俣の形など自分の身体の特徴を知っておくのは大切なことです。O脚、偏平足、肘が反り返っている、背骨が曲がっているなど、そのスポーツに適さない特徴があると、痛みが起こりやすくなるので、専門医の適切なアドバイスをうけてください。
身体の発育に応じたスポーツ指導
ひとの身体は、「うまくなる」神経系(10歳以下)、「粘り強くなる」呼吸循環器系(11歳〜14歳)、「力強くなる」筋骨格系(15歳以上)の順に発育していきます。10歳までのスポーツでは、神経系の機能をうまく育てるような指導が大切です。遊び感覚でいろいろなスポーツを体験させ、そのスポーツのパターンを覚えさせるような練習を取り入れるなど、工夫が必要です。ウサギ跳びは半月板に負荷がかかり、膝を伸ばした腹筋運動は腰痛の原因になるなど、けがのきっかけになります。こうした非合理的な練習は危険です。この時期、同年齢でも発育は個人差が大きいので、それぞれに合わせた正しいトレーニングを心がけてください。
指導者の配慮
指導者がチームの勝敗だけにこだわると練習量が増えたり、ハードになったりします。ジュニア期に毎日2時間以上の練習をしたり、年に対外試合数が25回を超えると、けがの発生が増える、との報告(日本体育協会調査)があります。リーグ戦の導入、練習量や投球数の制限など、競技、組織を運営する指導者の配慮が大切です。